タイトル『偶然?運命?神の悪戯?・・・私は貴方を信じてる 第5話』



















「ふむ。それでは、鋼のがいつ戻ってくるのか分からないのだね?」



大佐の問いかけに、アルは無言で頷いた。



ここは東方司令部の大佐執務室。



アルは朝早くに宿屋を飛び出し、いつも世話になっている人々に兄の所在不明を告げに来ていた。







「・・・兄さん、すぐ戻るって言ったんですけど。落ちた穴はこつぜんと消えてしまって。」



その場の雰囲気がエドを心から心配していた。







その空気に耐え切れなくなったのか、ハボックが口を開いた。



「大将なら大丈夫っスよ。向こうで彼女見つけて、よろしくやってますって。」



フォローになっているのか、いないのか・・・



そこにいた全員が一斉に冷たい視線を向ける。



中尉にいたっては、銃口を。



「じょ、冗談っスよ!冗談・・・。・・・すんません」



ハボックへの銃口が下ろされ、一瞬凍りついた空気も元に戻った。








暫く考え込んでいたロイが、アルにこう提案をした。



「とりあえず、消えた穴について調べるべきだろう。外部には漏らさず我々だけで調べるとしよう。それでもいいかね?アルフォンス君。」



「宜しくお願いします。僕もこの辺りに宿を借りて、兄さんの帰りを待ちます。必ずここに来るような気がするので・・・」



アルは首を縦に振り、頭を下げた。



「あら、それならここの宿舎に泊まるといいわ。まだ部屋が空いている様だから。手続きをしておくわね。」



大佐の隣にいた中尉が、労いの気持ちと共に口を開く。



「いいんですか?・・・すみません、お願いします。」



謝らなくてもいいのに、と中尉は微笑んだ。



「エドワード君、早く帰って来るといいわね。」



「・・・はい。」



中尉のふいの笑顔に少し照れたアルは、俯き加減に返事を返した。
































すやすやと寝息を立てていたエドは、少し開いたドアの隙間からの香りで目を覚ます。



昨日は遅い夕食の後とりとめもない話をして、エドとはすっかり打ち解けていた。



は次の日、つまり今日は出掛けなくても平気な日らしい。



そしてエドは、今も仕事で帰って来られないの両親の寝室を借りる事になった。



目をこすりながら、寝起きのままで二階から一階へ繋がる階段を下りる。






「おはよう、エド!よく眠れた?」






私服姿でキッチンに立っていたは階段からの音に気づき、笑顔で顔をこちらに向けていた。



昨日とはまた違った印象で、可愛らしい。エドの視線は泳いでしまう。



はそんなエドの様子に特に気づく事も無く、またフライパンと向き合いはじめた。
















お洒落な白っぽいブラウスに、淡いピンクのフレアスカート。



笑顔のを引き立たせるには充分な装いである。



「おぉ、はよ。・・・もう飯、作ってんのか?」



やっと視線を落ち着かせたエドは、最低限の事だけ口にした。



その言葉を聞くと、または視線をエドに移す。



「うん。エドが起きる前に作っちゃおうと思ったんだけど・・・。あと少しだから待っててね。」



「・・・おう、わりぃな。」


 
顔を洗ってきてはどうかと提案され、エドは説明された通りにリビングを出て、洗面台に向かった。
















「うぉっ!ここの水も俺たちの世界と一緒か!!」
















奥から聞こえる感嘆の声に、思わずは微笑んだ。



「あんな事にも感動するのね・・・可愛い。」








は昨日の会話を思い出した。



なぜ、あんなところに倒れていたのか


エドは外国ではなく、違う世界の人間であること


その世界では、科学ではなく錬金術が著しく発達していること


気がついたらあそこに倒れていたので、本来の世界への帰り方がわからないこと


・・・・・



聞き始めた当初、かなりの疑問があったのだが、話していくうちに嘘ではないと理解できた。



むしろ、そういった世界があると言う事に感動した。



そしてもっと彼の事を知りたいと思い、は自分の家に泊まらないかと提案したのだ。
















『あの、よかったら帰れるようになるまでここで過ごしませんか?』



『なっ・・・いきなりどうしたんだよ。』



『だって、行くところ無いんでしょう?親は仕事で帰ってこないから寂しくて。』



『っ、でもな・・・』



『それに、男の人がいれば怪しい人も入ってこないと思うんです!』






最後の方は半ば強制な雰囲気だ。どうしても彼と離れるのは惜しい気がしていた。



エドは何か言いたそうな顔をしていたが、結局の押しに負けて頷いた。



『・・・お前が構わないんなら、世話んなる。』



こうして、エドは家へ住まう事となった。







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