タイトル『カタルシス 〜精神の浄化〜 第5話』

















ノックをすると、自分を呼んだと思われる上官から入る事の許しを得た。


「お呼びでしょうか。」


ロイは軽く敬礼をしてみせる。


それを見たか見ないか、その上官は机の上にある書類を指差して言った。


「君は、合成獣の探査をしていたね。これは、資料室にあったものなんだが・・・」


そして、ロイの顔を見て苦笑した。


「君に与えられたのは極秘任務だからな・・・情報が少なくて困っているのではないかと思ってね。」






ロイは呆気に取られた。


自分に協力してくれる上官など、いないと思っていたのだ。


しかし、この人物は違った。


今の自分が「イシュバールの英雄」と呼ばれているように、この上官の過去は実績に溢れていた。


上からの嫌味や陰口など、彼も経験して来たのだろう。





「有難う御座います。町を見て回っているのですが・・・手際が悪くてお恥ずかしい限りです。」


ロイは有り難くなって口を開く。




「この合成獣を見つければ、さらに君の株は急上昇だな。」


「そんな。・・・私などには、勿体無い程の任務で御座います。」


ロイの言葉に、上官は声を上げて笑った。


「君の謙虚さ、私は好きだがね。頑張ってくれたまえ、私の上を行ってくれる事を願っているよ。」














ロイは、その上官から書類を受け取った。


出て行こうとするロイに、上官は少し慌てて呼び止める。


「そうだそうだ、これを忘れていたよ。」


そう言って、一枚の写真を差し出した。







「彼女が、合成獣にされる前に撮った写真だ。」








その写真にふと目を落とすロイ。








が、見て愕然となった。





















そこには、先日名前を教えて貰ったばかりの――― の姿が映っていた。





























「この合成獣は、数少ない成功例らしくてね。綺麗に人間の姿を保っているそうだ。」


無論、実際見たわけでは無いから何とも言えないが・・・そう上官は付け足して言った。


しかし、先ほどからのロイの様子を見て不審に思ったのだろう。心配そうな口調で問う。





「・・・どうした? 彼女は軍人だったから、面識があるのか?」




ハッと我に返ったロイは、慌てて首を振った。


「・・・いえ、全く。あまりに綺麗な女性だったので、つい見惚みとれてしまいました。」





上官は、私もだと言わんばかりの顔をした。





「いやぁ、君は本当に素晴らしい。上に立つ日が楽しみだ。」





満足そうに笑っている、こちらの気も知らず。





「・・・お褒めの言葉、有難う御座います・・・」



















































雨は、ひたすらに体の熱を奪う。



















雨粒は、容赦無く体を撃つ。


















それらが落ちてくる空を見上げ、ロイは静かに瞳を閉じた。























































初めて愛しいと思った女性が合成獣だったなど、なんと笑える話だろう・・・













































私は・・・彼女を捕らえなければならないのだろうか















































これも・・・出世のため・・・なのか





























































ガクリと膝を付き、背中全てに天の恵みを浴びた。






































「こんな事までして私は・・・」












































悔しさを抑え切れずに、自分の拳を握り締める。












































再び 空を見上げた。































相も変わらず、空からの恵みは止むことを知らないかのよう・・・
















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