タイトル『カタルシス 〜精神の浄化〜 第6話』
















ザーーーーーーーーー ッ


止む事を知らない雫が、屋根を伝って地面に滲み込む。


は窓の外を見た。


いつもこの時間に、彼は自分を訪ねて来るから・・・・・

















































ガタンッ


玄関先で音がした。


は驚き、急いでドアを開ける。


「・・・っ、どうしたんだ!? 傘も差さずに・・・」


そこには、いつもの笑顔が無い もう見慣れた顔があった。


「何か・・・あったのか?」


その言葉を聞くと、ロイの顔は一層下を向いた。


「と、とにかく中へ入れ。風邪を引く・・・」























は ロイの濡れた衣服を、暖炉の近くに運ぶ。


から受け取ったタオルを手に、ロイは暫くその姿を見つめた。


パチパチというまきの音だけが、部屋中に響き渡る。













「私は、極秘の任務を行うためにこの街におもむいた。」



ピクリと動きが止まるに、ロイは更にこう続けた。



「その、任務というのは・・・合成獣を生け捕りにするものでね・・・」



「・・・・・」



「簡単だと思っていたんだ。合成獣など、人と かけ合わせても人のカタチにはならない。」



「・・・だから・・・」












ロイは自分の頭を抱え込み、悲痛な声をあげる。





















「”こうして成功例がいるとは、考えもしなかった”か・・・?」





















向かいの椅子に座り、は静かに言葉を放った。


同意するように、ロイはれたこうべを縦に振る。


その様子に 半ば呆れて、はロイにこう言った。


「生け捕りにして、お前の地位が上がるなら私は構わない・・・」


















































「・・・さぁ、連れて行け・・・」


















































は 精一杯の笑顔を見せて立ち上がる。



にいっぱいの、涙を浮かべて・・・



けれど、決して泣きはしない。



これは 悲しい涙では無いから・・・・・



その瞳を閉じると、透明な雫は頬を流れた。


















































カタリ


空気が動く。


ロイが立ち上がったのか・・・


しかし 微動だにする事無いは、そのまま瞳を閉じている。


すると、ふわりと香る匂いと共に の唇は塞がれた。


それがロイだと分かるのに、どれ程時間を要しただろう。













「・・・どうして・・・っ」



唇が解放された頃には、の瞳から溢れんばかりの涙が伝っていた。



「お前は、私に沢山の事を教えてくれた。だから、今度は私が返す番なのに・・・!」



その言葉に、ロイは苦笑してを抱き締めた。



「初めて愛しいと、大切にしたいと想えた人間を どうして出世材料に出来ると言うんだ・・・?」



を見つめ直すと、ロイは愛おしそうな瞳でこう続ける。



「返す番と言うのなら、ずっと私の隣にいて 永遠に返し続けてくれたまえ・・・」



























「私は・・・合成獣だ。」


切ない声で、ロイに言い聞かせる。


「隣に居てくれるのなら、そんな事は構わない。」










「・・・死ねないかもしれないんだ、私は。」


声は、悲痛さを帯びてくる。


「ならば・・・私も死なずにいよう。」










は驚きのあまり、瞳を見開いた。


微笑むロイが、瞳に映る。


















































「・・・あんた、馬鹿だよ・・・」


そう言うの声に、先ほどの痛みは無くなっていた。


「君といられるのなら、馬鹿でも構わない・・・」











ロイは、抱き締める腕に力を込めた。


自然との腕は、ロイの背中にまわる。


















































『 私には・・そこまでされる価値も無い!! 』








『 自分の体がどうなったかも 正確には分からないし、多分 年もとらない。』









『 こんな、わけも分からない合成獣といて いい事なんて何も・・・無い。 』








こんな事を言ってもあんたは、








『 それでも構わない。 』








そう言って、私を抱き締めるんだろう・・・?


















































あぁ、どうして出遇ってしまったのだろう








あの日 あんたが声を掛けて来なければ、私が物を落とさなければ








この出逢いは無かったのかもしれない








互いの人生を変える事は無かったかもしれない








けれど・・・


















































出逢っていなければ 何の思い残しも無く、自ら命を絶ったかもしれない








笑うことも、泣くことも無かったかもしれない


















































ありがとう、私に全てをくれた










ありがとう、ロイ・・・































今はまだ、こんな言葉 口には出来ないけれど










いつかは言うから・・・































”愛している” と―――
























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