タイトル『真逆の花束』
















「おはよう、。黄色いチューリップを一輪貰えるかね?」



挨拶と共に、ロイは花を注文した。



「ロイさん、おはようございます。黄色ですね、ちょっと待って下さい。」



いつものようには対応をする。いつものように、リボンをかける。



「また黄色なんですか?・・・早く紫とか赤を買って頂きたいわ。」



シンプルに纏めた黄色いチューリップを渡しながら、はロイをからかった。



ロイは苦笑しながら答える。



「仕方が無いだろう?全員に別れを告げるのだから。私も、早くその人に渡したいのだがね・・・」



ロイは片手を挙げながら くるりと向きを変え、人混みの中に姿を消した。



「・・・頑張って下さいね。」



は少し、これから起こる事を考えて労いの言葉を吐いた。



この数時間後、ロイが消えた広場の方から 威勢のいい平手打ちの音か、泣き崩れる女性の声がする事だろう。










二人の出会いは、数ヶ月前にさかのぼる。



仕事からの帰り道、は道端に倒れこむ人を見つけ、とりあえず と自分の家へ運び看病をした。



そのとき運んだのが、ロイだったのだ。



過労のため意識がなくなってしまったらしい。



ロイはこの街の女性、ほとんどの憧れだ。



も例外ではない。



だが、仲良くなりたいと強く願いはしなかった。



住む世界が違うと思っていたから 叶わぬ恋だと思っていたから



しかし、この出来事がきっかけで二人は話をするようになり、ロイはの店を訪れた。



訪れては買っていく黄色いチューリップ、花言葉は「実らぬ恋」



自分に好意を寄せている女性全員に、別れを告げているらしい。



噂では、全員に別れを告げた後 本命の女性に紫色のチューリップを渡すそうだ。



紫色のチューリップ、花言葉は「永遠の愛」



この街の女性全員が、その時を心待ちにしていた。



広場に呼び出され、渡されるのが黄色いチューリップだと受け取らずに走り去る人もいるらしい。







パシーンッ



「あ、今日は平手打ち・・・」



花の水を取り替えながら、はぼそりと呟いた。







音がして暫くすると、ロイが再びの元を訪れた。



今までに無い行動に、は少し驚く。



「ロイさん?!・・・また黄色いチューリップですか?」



赤くなった頬を冷やしながら、ロイは首を横に振った。



「いや、黄色はもう必要ないんだ。・・・明日は紫と赤を貰いに来るよ。」



ロイの表情は優しかった。微笑みながらを見つめる。



しかし、はロイを見る事ができなかった。



気付かずにいた自分の気持ちに、ようやく気付く。



「よ、よかったですね。じゃあ、明日は花束をお作りしますわ・・・」



精一杯の笑顔で



は言葉を絞り出す。



この気持ちが、ロイに悟られないように・・・



「有難う。では、また明日来るよ。」



ロイは去って行く まるで、二度と会えないかのように



遠く 遠く








「・・・っ」



はその場に泣き崩れた。



声にならない声を、懸命に堪えて。



自分が気付かないうちに膨らんだ、ロイへの淡い恋心



掻き消そうとすればするほど、大きくなって



「あの人は・・・私に会うために来てくれていたわけじゃないのに・・・」



いつの間にか 当たり前になっていた生活を悔やんだ。



悔やんでも悔やみきれない・・・ロイと係わった日々は 決して幻ではなかったから








「おはよう、。」



次の日の朝、ロイはいつものように店を訪れた。



「おはようございます、ロイさん。」



泣き腫らした目を誤魔化しながら、はいつものように対応を心がける。



「・・・出来ていますよ、チューリップの花束。」



奥から出来上がった花束を取り出す。その手は微かに震えていた。



花束を渡すと、は俯き涙を堪えた。



嬉しそうなロイの表情をみたくはなかった。



見てしまうと、隣で笑う女性の姿が見えてしまう気がしたのだ。



しかし花束を受け取ったロイは、決して動こうとしない。



「早く、早く行って下さい!・・・じゃなくちゃ、私・・・」



耐え切れなくなったは、涙を浮かべて懇願する。



しかし見上げたロイの表情は、これ以上無いほど優しかった。



「これを受け取って欲しいのは・・・、君なのだがね。」



の頬に手を添えて そっと耳打ちするように囁いた。



「えっ・・・」



突然の言葉に、は言葉を失う。



しかし、ロイは言葉を続ける。



「君が言ったのだよ?『 一途になれば恋は叶う 』と。」



ようやく意味に気付くと、はロイの胸に飛び込んだ。



「・・あの会話、覚えて・・・くれてたんですか・・・?」



花束を抱え、を抱きしめ、ロイはそっと頷いた。



「忘れるはずが無いだろう・・・」












忘れるはずなど無いだろう



君が与えてくれた言葉を



『 あんまり無理しちゃ、ダメですよ? 』







忘れるはずなど無いだろう



君がくれた本当の愛を



『 どうすれば、恋は叶うのだろうね・・・ 』



『 簡単ですよ、素直になればいいんです。一途に想い続ければ、必ず想いは伝わるんです。 』







忘れるはずなど無いだろう



君を想う、純粋な気持ちを





・・・君を、愛している。」






Created by DreamEditor