タイトル『おかえりなさい』
が婚約したという噂は、あまり時間を掛からずして街の隅々まで行き届いた。
この街の男性の憧れであり、多くの男性が想いを寄せていた人の婚約だったのだ。
相手は、史上最年少で国家錬金術師になったあの人物。
しかも より年下ときたのだから、広まる速度が速いのも無理はない。
自分からは言ってはいないのに、早いものだ とは思った。
きっと 誘いに来た男性が、その薬指に指輪を見つけ 嘆いたのだろう。
勿論 は否定する気など無かったし、それで誘いが減れば 無駄に人を傷つけなくても済むと思っていた。
しかし、その考えは甘かったのだ。
『 さん、考え直す気はありませんか? 彼はまだ子供だ。気持ちが変わってしまうかもしれませんよ!? 』
『 さん・・・自分は、あなたを諦める事が出来ません! どうか、婚約は嘘だったと言って下さい!! 』
次から次へと、抗議の訪問が相次いだ。
その度に は 幸せそうに左手を見せ、丁寧に断っていった。
『 私は、この方との一生を決めましたので・・・ごめんなさい。 』
好かない人と一緒にいるよりも、滅多に会えない愛する人を待つことを選んだ。
断られた男性達は の見たことも無い幸せそうな微笑みに負け、店を後にするのだった。
この噂も手伝ってか、店には以前に増して客が増えた。
おかげで 寂しいと思う時間が減り、にとっては有意義な日々だった。
しかし、少しでも時間があると考えてしまう。
「・・・エド・・・」
会いたいと思うより、無事だろうかと思う気持ちの方が強かった。
必ず迎えに来ると言ったあの日から、の心配はそればかり。
目的を果たすことに伴う危険が大きすぎるのだ。の日課は、二人の旅の無事を祈る事になっていた。
そんな日々を過ごして数年後―――
今日も の朝は、花の水やりから始まる。
店の前の小さなプランターだが 通るたびに褒めてくれる人のため、この花々を大切にしていた。
なにより、エドが好きだと言ってくれた
プランターの花は、何度その姿を変えただろう・・・
数年経っても、の人気は衰える事を知らなかった。
むしろ いつ帰ってくるか分からない人の帰りを ひたすら待ち続ける健気な姿に、女性からの人気が上がった。
『 さん、あの人には待つほどの価値があるわ。頑張ってね。 』
『 応援してます! 絶対、幸せになって下さい!! 』
暖かい人々に見守られて過ごしてきた。
・・・しかし、そろそろ それも限界のようだ。
日々募る想いや、不安で折れそうだった。
「あら・・・咲いたのね。」
ふと目を落とすと、昨日は つぼみだった小さな花が 遠慮がちに咲いていた。
この花が咲いたら、エドは帰ってくると勝手に願懸けをしていた花。
薄いピンクの花びらが可愛らしい。けれど、この花はとても強いのだ。
「でも、帰ってくるわけ無いわ・・・まだ日が浅すぎるもの。」
左手の指輪を眺めながら呟く。
その時だ、は誰かに声を掛けられた。
「お早うございます。・・・あなたも花も、綺麗ですね。」
はいつものように、優しい笑顔をつくって振り返った。
「お早うございます。そうですか? 有難う御座いま 」
奇跡は・・・起こるのだ
「俺のこと、そんなに未熟者だと思ってたのか? ・・・ひっで〜な」
振り返ると 自分よりも背が高く 声も低くなった青年が、街路樹に身を任せ 立っていた。
「・・・ただいま。」
青年は柔らかく、そして嬉しそうに微笑む。
はジョウロを落とし、駆け出した。
「おかえりなさいっ!!」
抱きついたを、エドは力一杯抱き締める。
二度と離すまいと誓うように・・・
「夫となるべき人、エドワード・エルリック。そなたは 妻となるべき人 ・を永遠に愛し、慈しみ、幸せにすると誓うかね?」
「 ったりめ〜だろ! 離してくれって言われても離してなんかやらねぇよ!!」
「・・・よろしい。では 妻となるべき人、・。そなたは夫となるべき人 エドワード・エルリックを永遠に愛し、大切にし、側にいると誓うかね?」
「・・・はい、誓います。」
「よろしい。誓い合ったのだ、幸せになりなさい・・・エドワード・エルリック、・エルリック。おめでとう!」
「サンキュー、大佐! っと・・・もう准将か? あんたの結婚式、仲人になってやるからな!!」
「行くぜ、! 来てくれたやつらが外で待ってる。」
ヒョイと、エドはを抱き上げた。
「ち、ちょっとエド!? タキシードが汚れちゃうじゃない! ロイさん、有難う御座いました!!」
の言葉が終わるか終わらないか、エドは恥ずかしがるを気にせず 皆が待つ広場へ駆け出した。
「まったく、君にその台詞を言われるとはな・・・」
ロイは、二人の後ろ姿を見ながら苦笑を浮かべた。
『 幸せになれ、鋼の・・・! 』
「 兄さん、さん おめでとう! 」
「 おめでとう、おめでとう! 二人とも!! 」
「 さんを幸せにして下さいっ!! 」
あちこちから歓声が起こった。
ここは、の店の前。 二人が出逢った、思い出の場所。
先ほどの誓いは、店の中で行われた。
――― 神に誓うより、お前だけに誓う ―――
そう言って教会での式を拒んだエド。はそれに同意し、ここになったのだ。
「・・・」
すっとエドは差し出す、ぬくもりを感じる事が出来るようになったその右手を。
は静かに、自分の手を重ねる。
「ぜってー、離さないからなっ!」
ニカッとエドは笑って見せた。心から幸せそうな笑顔で。
そして、優しくに口付ける。今度のキスは、が少し踵を上げた。
二人の旅は 始まったばかり・・・
後書き。
お待たせ致しました><
「左手に、あなたからの贈り物」の数年後のお話です(^^)
エドは ”神様を信じない”という性質(たち)の人なので、あえて教会での挙式にはしませんでした。
それを一番分かっているのは、さんとアルだと思ったので。
ちなみに、ロイさんは友情出演です♪
誓い言葉は オリジナルですので、おかしかったらすいません;;
ではでは 杉原さん、リク有難う御座いました。
宜しかったら、またリクなどしてやって下さい(^^ゞ
ここまで読んで下さった皆様、有難う御座いました。
宜しかったら、リクなどしてやって下さい。お待ちしておりますv
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