タイトル『「遅すぎた出会い」 第1話』

















柔らかな栗色の髪を風になびかせて夜空を見上げる少女がいた。


名前は「 」この国の姫である。



16歳の誕生日を向かえ、近くの国の王子と婚約を済ませた直後だった。



幸せの笑顔がこぼれるはずのその顔からは、どこか切なく諦めの表情が見受けられた。



「・・・私は本当の恋も知らずに、この国の犠牲になるのね。」



消えそうなほど小さなため息と共に、不満の声が漏れた。





結婚式は5ヶ月後に迫っていた。






今日も の婚約を祝うパーティーだった。



先日は各国の王族を招き、今日は国王に忠誠を誓う上層階級の軍人が招かれた。



はいつもと同様のスピーチを頭の中で繰り返し、作り笑顔を上品に浮かべた。



しかし今日に限っては、出席者が慣れない種類の人間であったため笑顔が少し引きつりそうだった。






パーティードレスに身を包んだ はホールに向かって足を運ばせていた。



ふと微かな音に足を止め、付き人を先にホールへ向かわせ自分は音のする方へと足を進めた。



段々はっきりと聞こえる音は、優しく・心地よく の耳へ届いた。



どこか切なさをも含んだ音は、堪えている涙を誘うのに充分過ぎた。



自然と頬をつたう物に気も止めず は音の聞こえる茂みの前で立ち止まった。



その奥には、見とれる程綺麗な金色のみつ編みが覗いていた。



声を掛けていいか戸惑う程落ち着いた後姿に、 は思わずドキッっとした。恐る恐る声を掛けてみた




「・・・あの、お隣宜しいでしょうか?」




金色の髪の主は勢い良くこちらを向いた。



そして の頬に涙を見つけると、少し驚いた表情で「どうぞ」と隣を空けた。

 

が隣に腰を下ろすと、少年は照れくさそうな表情でまた楽器を吹き始めた。



彼が吹いているのはフルートだった。



澄んだ音が緑に反射し、 の涙をまた誘った。



この音を聞きながら、目を閉じて彼がこちらを振り返った時を思い出す。



まっすぐな瞳が凛々しく、何か悟ったようなその奥。



金色の髪がよく映える瞳の色に軍服の青。



軍人には似合わない程その姿は初々しく、むしろ軍なんかに縛られてはいけないような気さえした。






は今隣にいる少年に目を向け、彼の瞳を閉じた横顔を見つめた。



しばらく眺めていると音が止み、閉じていた少年の瞳がまっすぐ をとらえた。



思わず赤くなった を見て、少年は悪戯が見つかった子供のような笑顔でこう言った。



姫だろ?この結婚、幸せならおめでとうって言いてぇんだけどな。・・・望んだ結婚なのか?」



この言葉に、張り詰めていた糸が音を立てて切れた気がした。気が付くと の頬にはまた涙がつたっていた。






         この一言が欲しかった



祝いの言葉を並べるだけで、誰も自分の気持ちまで聞いてくれなかった。



自分の気持ちは婚約が決まったときから、心の奥に封じ込めたはずだった。



声を殺して涙を抑えようとしたが無理だった。



見ず知らずの軍服の少年が、全て包み込むように を抱き寄せたから。





「すまねー、悪い事言っちまったな・・・」





耳元で聞くその声は、子供をあやすように優しかった。



その言葉に、とうとう声をあげて泣き始めた は首を大きく横に振った。



そして、消えてしまいそうな声で「ありがとう」と呟いた。

 




彼は強く、けれど優しく を抱き締めた。「我慢するな」と囁いて・・・



はこの名も知らぬ少年に今までに無い安心感と不思議な感情を抱いた。






お互い分かっていなかった。これが本物の恋になると言う事を・・・





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