タイトル『遅すぎた出会い 第3話』
自分でも理解出来なかった。何故初対面の女性を、ましてや国の後継者を抱き締めるかなんて・・・
確実に分かっているのは、俺の腕の中で涙を流すあの姫の笑顔を見たい、全てを「守りたい」と思った事。
そよ風の優しさを、伝えてみたいと思った事・・・
俺は彼女の前から姿を消し、木の茂みに隠れた。
それとほぼ同時に、付き人と思われる声が後ろに聞こえた。
「様、こんな所にいらしたのですか?なかなかいらっしゃらないから、国王様がご心配なさっておりますよ?」
表情は見えないが、余程苦労してを捜していたのだろう。息があがっており、苦しそうな声だった。
(たった数分見えなかっただけだろうに・・・姫様は大変だな。)
木の幹にもたれて、俺は少し苦笑した。
この場を立ち去ろうとしたその時、ふと彼女の言葉が耳に入った。
「ねぇ、風とはなんだと思う?」
「かっ風でございますか?」
付き人が、慌てた口調で聞き返していた。そして、少しの沈黙の後
「くっ空気のほぼ水平方向の運動と習った事があります。」と答えた
吹き出すかと思った。あまりに自分とは違う意見だったから。
なぁ、姫。俺に同じ事を聞いたら、こう答えるぜ。
「 」
俺は、音を立てないように隠れていた茂みから離れた。
ホールの裏側に着くと、他の仲間は仕度を整えているところだった。
多少なりとも緊張しているらしく、空気で緊張感が伝わってくる。
ここにはいつもの仲間もいて、個々準備に追われていた。
その時、聞きなれた声が俺の名を呼んだ。
「鋼の。いつまで突っ立っているつもりだね?我々はもうすぐ”演奏”という大事な使命を全うせねばならぬのだぞ。」
相変わらず独特な響きだ。俺は、その忠告を軽く流して口を開いた。
「・・・なぁ。『風』って何だと思う?」
突然の言葉に少し驚いたようだったが、「ふむ。」と俯いた後、口を開いた。
「空気の動き。一般に、気圧の高い方から低い方に向かう水平方向の空気の流れをいう。・・・これでどうだね?」
辞書を引いたかのような答えに、俺は今度こそ吹き出した。
「はっ、鋼の?!何がそんなにおかしい。私の答えは的を獲ているではないか。」
「わりぃ、わりぃ。あまりにも辞書みたいに答えるからつい。さっきもそんな答え聞いたし。」
大佐の顔には似合わない、〈分からない〉という表情が出来上がっていた。
その時、「フッ」っと、周りの照明が暗くなった。
俺は慌てて準備をすると、身なりもそこそこに決められた席に着き、暗がりの中、目を凝らして姫の姿を捜した。
次の瞬間、一斉に照明がこちらに向けられた。自分のソロが近いと気づくと楽器を構え、演奏に集中した。
彼女に俺の居場所が分かるように、俺の言葉が届くように・・・
他の仲間が演奏している時に、ふと彼女に目を移した。
壊れそうな笑顔に見えたのは俺だけなのだろうか・・・
今すぐ、ここを離れて抱き締めてやりたいと思った。
だが、叶う筈は無く彼女だけに見えるよう、ライトが離れた時そっと微笑んだ。
届いただろうか。俺の・・・
少年の出番も終り、パーティーの終りも近づいていた。
今、ホールではダンスが行われている。
先ほどから少し、周りが騒がしくなっていた。どうやら今日の主役の姫がまた姿を消してしまったらしい。
付き人やメイドが必死でを捜す中、フルートを吹いていた少年は自分の自己紹介がまだだったと気づき姫を捜し始めた。
ふと、思いついたように少年はある場所へと足を運んだ。
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