タイトル『遅すぎた出会い 第5話』

















自由な鳥に籠はいらない・・・


羽ばたく翼に錘(おもり)はいらない・・・


俺に全てを預けてくれたら、永遠をかけて守ってみせる


だから、信じてくれないか?


合鍵なんて必要ないから、瞳を閉じて全てを託して


ただそれだけで・・・どんなに阻まれようとも、君の元へかけていく



・・・・例え、命を削っても






エドは、もう一度強く抱きしめた。その腕の中では、堪えていたものが音を立てて崩れていくのを感じた。



あぁ、どうしてこの人は私の欲しい言葉を与えてくれるのだろう


何故、出会ったばかりなのにこんなに愛しく思えてしまうのだろう



頭では整理しきれないことばかり起こっている。ただ感情のままに、彼に全てを預けたいと思った。


「彼ならきっと受け止めてくれるに違いない」先ほどの言葉はこうして発せられた。


やはり、彼は受け止めてくれた。


どうしようもなく嬉しかった。自分の存在価値を認めてくれた、初めての人だったのかもしれない。


行き場所がなく堪えていた涙は、止まることを知らないかのように流れ続けた。


服を濡らしてしまうのは申し訳ないと微かに思い、服から顔を離そうとすると、エドはの頭を自分の肩に戻した。


「だから・・・俺の前では無理するなって言ったろ?」


半分呆れたような、それでいてあの笑顔を思い出す声だった。は苦笑すると、


「はい。」


そう頷いてまたエドの肩を濡らした。




の涙が収まって少し経つと、ホールの方から音楽が流れてきた。


姫が見つからない混乱を、少しでも緩和するためダンスが再開されたようだ。


エドは何か思いついたようにから離れた。


が不安そうにしていると、片膝をつきへと自分の掌を差し出した。



「俺と踊っていただけますか?」



を見上げると、笑顔で軽くウィンクした。


そんな少年のような仕草には微笑んで、返事の代わりに掌を添えた。




2人だけのダンス。2人にとって少しだけの幸せなひととき・・・ 


音楽は、2人のためだけに流れているようにさえ聞こえた。



エドのダンスは、慣れていないのが良くわかった。


しかし、懸命にリードしようと言う気持ちが伝わってくるダンスだった。


はエドの優しさに触れながら、彼のリードに身を任せた。




永遠にこの時が続けばいいのに・・・




刹那に願った。これから待ち受けている絶望的な日々から逃げ出して、彼と何処かへ行ってしまいたい・・・


無理な事は、分かっている。だからせめて・・・




− せめて今だけは、愛しいと思える人の傍にいさせて下さい −




は神にそっと願った。 


夜空に一つ、流れ星が流れた時に





しばらく2人が踊っていると、再びホールの方が騒がしくなった。


どうやら姫がいないことが知れわたり始めたようだ。

「・・・もうそろそろ、戻った方がいいんじゃねぇか?俺がいなくても何の影響もねぇけど、は今日の主役だろ?」


そう言ってエドは、名残惜しそうにから離れようとした。


しかし、離れようとするエドをが引き戻した。


「イヤっ!今戻ったら、もう二度とエドと逢えなくなってしまうのよ。私は逢えなくなってしまうなんて嫌・・・」


語尾の方は涙ぐんだ声だった。愛しい人から発せられた、悲しいSOS。


エドはこの言葉に決心した、籠の鍵を壊す事を・・・




・・・今すぐは無理かもしれない。でも、必ず迎えに来る。俺も、お前と会えなくなるなんて考えられねぇから。だから待っていて欲しい・・・」




エドは、引き戻された腕をの背中に回し言った。


突然の言葉に、は驚くだけだった。


しかし、近々の自分の結婚と、事の重大さに気づき慌てて言葉を返した。


「わ、私はどうなっても構わないの。でも、エドに犯罪者になんてなって欲しくない・・・それに・・・・」


続きの言葉は、エドの唇によって塞がれた。




優しく口付けてくるエドに、は全てを捧げようと心に決めた。




もう独りじゃない・・・


閉じたの瞳から、一筋の涙が伝った。




唇が離れると、エドは真っ赤になったの顔を見つけ、微笑んだ。


少し経つと、は俯いていた顔を上げ、照れながら口を開いた。



「籠の中の鳥って、羽ばたきたいともがいていても、本当はすごく寂しがり屋なの。逃がしてくれるのなら、最期まで見届けて下さらないかしら。」



エドは目を見開いた。自分が考えていたのと同じような事を、の口が発したから。


この言葉が、よりいっそうエドの心を締め付けた。





少しの間が空いた後、エドはの手を取り、甲に軽く口付けた。


「お前が望むなら、俺の全てをかけてお前を守る。」


を見上げ、迷いの無い声で言った。


出会った時と同じまっすぐな瞳が、だけを映していた。





エドがの手を放すのと同時に、バタバタと走る音がまた聞こえてきた。を呼ぶ声と共に・・・


「・・・じゃあな。必ず迎えに来るから、待っててくれ・・・」


エドは最後にの頬に軽くキスをすると、名残惜しそうな顔で踵を返した。


が声を掛ける間もなくエドは駈け出し、木の茂みで見えなくなった頃付き人たちがを囲んだ。


様っ!勝手に行動されては困ります!お願いですから、ご自分の側に1人でも置いて行動なさって下さい。」


全員息を切らして、肩を揺らしていたが、を見つけ安堵したのか少し表情が明るかった。


「・・・ご免なさい。急に風に当たりたくなってしまったの。もう戻るわ。心配かけて申し訳なかったわね。」


傍にいてくれるのはエドだけでいい、エドじゃなきゃ嫌。と心の中で思いながら、社交辞令気味には頭を下げた。


そんな様子に付き人達は慌てて言葉を続けた。


「そんな、私達に頭をお下げにならないで下さい。我々は様が無事でいらしてくれた事が一番なのですから。・・・ではホールの方へ。様とご一緒したい方々が多数お待ちになっておられます。」


付き人たちに促され、はホールの方へ向きを変えようとした。しかし、暫くの間立ち尽くしていた。



エドが去っていった木々を見つめながら・・・・・







守りたい

こんなにも、こんなにも愛しいから

自由を縛る籠なんか蹴飛ばして

大空を羽ばたく鳥になるから

どんな海よりも深く、愛してる・・・



定めなんて関係ない

これからの未来は2人で築くものだから

足を繋ぐ錘なんか引き裂いて

虹を翔ける翼を得るから

愛してる、愛してる、愛してる・・・



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