タイトル『遅すぎた出会い 第9話』

















頬を伝う雫も気にせず走り続けた


後ろを振り向くなんて必要ないの


「私」の本当の人生はここから始まるのだから・・・








無我夢中で走る中、息を切らせたエドはの方に顔を向けた。


「最終の列車に乗って、ここを離れようと思うんだ。駅のホームでアルが待ってる。・・・走れるか?」


は頷き、こう返した。


「私は大丈夫!構わず走って!」


の様子をもう一度窺うと、エドは苦しそうな表情の中に笑みを浮かべまた前を向いた。








体中に風を感じる。は思い切り、肺に空気を送り込んだ。


むせ返りそうな程の風と、手のぬくもりを決して失いたくないと・・・




私はもう独りじゃない


あなたがいてくれるなら、どこまでも・・・どこまでも走ってゆける













暗闇だけだった方向に、突然光が現れた。


光を見つけると、エドは安堵した表情でに話しかけた。


・・・あれが駅だ!あそこの入り口でアルが待ってる。もう少しだから頑張ってくれな!!」


は返事の代わりに、繋いでいる手に力を込めた。




光が具体的にわかる頃、2人の視界は大きな鎧を捉えた。


向こうもこちらに気づくと、大声で叫んだ。


「・・・兄さんっ!荷物は積んだよ!あと五分だから急いで!!」


アルとは、「最終列車」で落ち合うことにしていた。


間に合わなければ、アルだけでもここから離れさせるつもりだった。


しかし、この考えは必要ないようだ。


2人はアルの用意した座席に着き、肩を激しく上下させた。


息が整わないうちに、エドが口を開いた。


「・・・っ、アル。よかった・・・また・・会えて。」


そんな様子にアルは微笑んで言った。


「うん。おかえり、兄さん。・・・おかえり、さん。」


エドは「おう。」と返事を返し、を見た。


は先ほどのアルの言葉に驚いているようだった。


アルは、続けて自己紹介をした。


「初めまして、アルフォンス・エルリックです。いずれ事情は話しますが、この姿で弟です。」


アルの自己紹介に、は自分も自己紹介をして返した。


その頃には息も整い、普通に話が出来るようになっていた。






列車が駅を離れて数分後、を見ていたアルが言った。


「兄さん、僕こんなに可愛い人だなんて聞いてないよ?2人はお似合いだね。」


この言葉に、は耳まで赤くし、エドは照れて頭を掻いた。


「俺には、が必要なんだ。俺はを一生かけて守り抜く。」


最初はアルに向けて、最後はに視線を向けて。エドは凛とした声を発した。


目を合わせたままは頷き、「私も。」と微笑んだ。






「そういえば、間に合ったけど向こうにはまだバレていないの?」


アルは思い出したように口を開いた。


その言葉に、は部屋での出来事などを二人に話した。


窓が開いているのを見られた事、合鍵で鍵を開けられ少し騒ぎになりだしていたこと・・・


「じゃあ、もしかしたら列車に捜索網が張られるかもしれないよ・・・この列車に。」


アルは重い口を開けて言った。


三人の間に張り詰めた空気が走る。


その空気を打ち破ったのがエドだった。


「とりあえず、は印象を変えた方がいいな。公に出ていた人間だから。」


は頷いた。


「そうね。・・・じゃあ、髪の毛切ってもらえる?ばっさりね。」


エドはの意見に同意し、自分の機械鎧を鋭いナイフに変えた。


一瞬の光や、音に驚いただったが「さすが錬金術師ね。」と感心した。


本当に短くなった。腰ほどまであった髪は肩に触れるか分からないほどだ。


切った髪は捨てず、エドが毛糸玉にしてくれた。


「綺麗な髪だな。」そう言って、毛糸玉を手渡した。


は大事そうに受け取り、「ありがとう。」と答えた。


次に、目と髪の色を一時的に変えてもらった。それはエド自身もしていた。


原型が分からないくらい変わった2人を見て、アルは提案した。


「・・・僕も違う形にしてくれる?」


エドは驚いて口を開いた。


「何言ってるんだよ!お前は血印が消えたらいなくなるんだぞ。・・・戻れなくなったらどうするんだ。」


「・・・大丈夫だよ。僕はいなくなったりしないから。もし、僕の印象が強ければ向こうに記憶が残るでしょ?それでバレるなんて嫌なんだ。」


アルは、まっすぐ兄を見た。


迷いのない瞳に負けて、エドは錬成陣を光らせた。


次の瞬間、アルは小さな置き物になった。


は置き物と毛糸玉を手に取り、弱い力で抱き締めた。


そんな様子にエドは後ろからを抱き締めた。


「心配しなくていい。俺が絶対お前を守って、幸せにするから・・・」


「・・・エド・・・」








2人が向き合い、唇を合わせようとしたときだった。


スピーカーから車掌らしき人物の声が流れた。


「大変申し訳ありませんが、緊急の連絡が入りまして次の駅で少々停車させていただきます。その際、乗客の皆様は席で待機を願います。一人ずつお聞きしたいことがございます。」


2人の動きを止めるには充分過ぎるアナウンスだった。


は少し震え初め、エドは必死に考え始めた。


そしてに「堂々としてろ。話すのは俺がするから。」と耳打ちした。


列車は予告通り、次の駅で停車した。


















駅員がだんだん近づいてくる。


は握り締めた手に力を入れた。


異常に気がつくと、エドはに声を掛ける。


「言っただろ?絶対に守るって。・・・約束は果たすためにあるんだからな?」


そう言って微笑んだ。



駅員とエドの会話が始まった


「子供だけでこれからどこへ行くつもりなんだ?」


「祖母の家を訪問しに行きます。両親は先日なくなったので2人で行くしかないんですよ。」


「そのバックの中身は?」


「洋服や食べ物が入ってます。お腹が空いたら食べられるように。毛糸と置き物は両親の形見です。」


・・・




エドの冷静な対処と、の少し怯えた表情が会話の真実味を増したらしい。


2人は特に疑われる事も無く、乗車し続ける許可を得た。


そして列車は「異常無し」とのアナウンスを流し、再び運転を再開した。


















とうとう終点の駅に着いた。暫くはエドとだけで荷物を持ち、歩いた。


木の陰や人通りの無い道に入り、置き物を取り出した。


エドは慎重に練成をした。


すると、乗車時と変わらないアルの姿が現れた。


「ほらっ、僕はいなくなったりしないでしょう?」


アルは、少し自慢げに笑って見せた。







少し経ったあと、は2人にお礼を言った。


「エド、アルさん。本当にありがとう。私、2人がいなかったら今でもあの窮屈な檻の中で独りきりだった・・・。ほんと・・・」


語尾までたどり着かずに涙がの声を遮った。






本当に嬉しかった。自分の事を考えてくれる人に出会えて、一緒にいる事が出来て。


与えられたチャンスを無駄にしたくないと切に願った。






涙を止めようとすると、エドがを抱き締め囁いた。


「ったく、俺は無理してほしくてこうした訳じゃないんだからな。泣きたい時には泣けばいいだろ?」


エドの言葉がゆっくりと心に沁みていく。


そして涙を堪えないで、エドに言った。


「ありがとう。早く前に進まなきゃね。二人がくれたチャンスを逃すわけにはいかないもの。」


最後には強気な笑みも見受けられた。


アルは、この時本当にエドの気持ちを理解した気がした。













エドは前を向いた。


合わせてアルとも前を向く。


「よし!人のいない所へ行こう。追っ手が来ない、奥地へ。これからの事はそれからだ!」


エドのこの言葉に合わせ、3人は確かな足取りを地面から感じ、実感した。


エドはの手を引いて、ゆっくりと歩き出した・・・














風を与えてくれたあなた


あなたとなら、どんな困難にも立ち向かうと誓います



この世に生まれてきて本当によかった


だってあなたに出会えたんだもの



あなたの暖かいこの手、信じています














後書きならぬ、言い訳
すいません・・・こんなに長く止めたくせに、進展がすくなくて(汗)
私も書き方を忘れたようです。
勉強して出直してまいります・・・!

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